杉原紙

1970年代に再興された杉原紙

杉原紙(すぎはらがみ、すいばらがみ、椙原紙)は、和紙の一種である。

独特の製法で漉かれ、中世の日本を代表する和紙で、全国で製造された[1]。近代に西洋紙が普及するといちど廃絶し、「幻の紙」となった。後に和紙研究家によってルーツが発見され、1970年代に再興された[1]

再興後の杉原紙は、古代・中世とは異なる製法によって漉かれており、同じものではない[1]。再興後の杉原紙は、兵庫県多可町杉原谷で生産されており、兵庫県の重要無形文化財・伝統的工芸品に指定されている[2]

このため再興以前の「杉原紙」は「杉原紙の製法で漉かれた和紙」のことを指すが、再興後の「杉原紙」は「杉原地区で漉かれた和紙」を指す。

かつての「杉原紙」

杉原紙は古来から上等な紙として知られ、『鎌倉年代記』(14世紀半ば)によれば、鎌倉に流通して武士階級に浸透した[1]。当時は貴重品だった和紙は、武家社会での正式な贈答品として尊重され、一束一本という形式が育まれた[1]。これは「一束」として和紙10帖(480枚相当)、「一本」として扇子を1本添えて水引で束ねた礼儀作法である[1]。この際に和紙として送られたのが主に杉原紙だった[1]

杉原紙は全国で生産され、産地毎に「○○杉原」(周防で漉かれた杉原紙であれば「周防杉原」となる)と称された[1][2]江戸時代には杉原紙の生産地は20ヶ国に及んだ[1]

近代になると一束一本の贈答礼が廃れるとともに、西洋紙が普及して杉原紙の生産が行われなくなり、大正時代末期には完全に姿を消した[1][2]

特徴

江戸期の文献によると、杉原紙は「糊入り」と「紗漉き」という2つの製造技法が特徴である[1]

糊入りは紙を漉く際に米粉を混ぜる技法である。紗漉きは、紙を漉く際に用いる竹簀に薄(紗)を敷く技法で、これにより紙に竹簀の跡が残らずなめらかな紙となる[1]

杉原紙の再興

杉原紙の起源を発見した新村出

杉原紙はかつて「天下の名紙」と称されたが、その製法だけが伝わり、由来は不詳だった[1]。このため大正期に生産者がいなくなると「幻の紙」と言われるようになった[1]

言語学者新村出英文学者・和紙研究家の寿岳文章は、失われた杉原紙のルーツを研究し、1940年(昭和15年)に兵庫県の杉原谷村(合併により、加美町を経て2014年現在は多可町の一部)が発祥の地であることを突き止めた[1][2]

1972年(昭和47年)に当時の加美町が出資し、町立杉原紙研究所を設立し、紙の生産を再興した[1][2]。加美町ではほぼ全戸にあたる1900戸の住人がコウゾを栽培し(一戸一株運動)、杉原紙研究所に納めて紙漉きを行った[1][2]。再興された杉原紙は「糊入り」や「紗漉き」を行っていないため、中近世の「杉原紙」とは質に違いがある[1]。現在の杉原紙はコウゾだけを原料とすることで強靭さや独特の手触りが特徴である[1][2]

再興後の杉原紙は、1983年(昭和58年)に兵庫県の無形文化財に指定され、1993年(平成5年)には兵庫県によって伝統的工芸品とされた[2]

現在、同研究所及び隣接する道の駅R427かみなどで販売されている。

起源

日本国内産の和紙で最古のものは飛鳥時代にさかのぼり、702年には筑前国豊前国美濃国で戸籍に使われていたことが分かっている[3]。一方、杉原紙のルーツになったのは「播磨紙」と言われる和紙で、杉原紙研究所のホームページに拠れば奈良時代(710-)からすでに高い評価を得ていたとされる[4][注 1]

杉原地区(杉原谷)は、古代(平安時代)には藤原摂関家の荘園「椙原荘」と呼ばれており、その頃から紙漉きが行われていた[5]。奈良時代から高い評価を得ていた杉原紙は、古代には写経に用いられていたが、中世(鎌倉時代)になると鎌倉幕府の公用紙となった[4]

室町時代から江戸時代には庶民が使用するまでに普及し、生産地が全国へ拡大した[2][5]。江戸時代には浮世絵などにも利用された[2]。しかし、明治・大正期に急速に衰退し、大正末期には断絶した[2]

脚注

参考文献

  • 『和紙類考』,渡部道太郎,物外荘,1933
  • 『岡山県大百科事典』,山陽新聞社・岡山県大百科事典編集委員会・編,山陽新聞社,1980
  • 『日本書誌学体系31(3) 木村仙秀集3』,青裳堂書店,1984
  • 『和紙文化誌』,久米康生,毎日コミュニケーションズ,1990
  • 『すぐわかる和紙の見わけ方』,久米康生・著,東京美術,2003
  • 『和紙の源流』,久米康生,岩波書店,2004
  • 『紙の文化事典』,尾鍋史彦,朝倉書店,2006
  • 『和紙の歴史 -製法と原材料の変遷-』,宍倉佐敏,財団法人印刷朝陽会,2006
  • 『和紙つくりの歴史と技法』,久米康生,岩田書院,2008
  • 『和紙のすばらしさ -日本・韓国・中国への製紙行脚-』,ダード・ハンター・著,久米康生・訳,勉誠出版,2009
  • 『和紙の里探訪記 全国三百を歩く』,菊地正浩,草思社,2012
  • 『和紙文化研究事典』,久米康生,財団法人法政大学出版局,2012
  • 兵庫県

注釈

  1. ^ ここでは、年代に関して出典の間に重大な齟齬があります。詳細はノートで。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 『すぐわかる和紙の見わけ方』p32-33
  2. ^ a b c d e f g h i j k 兵庫県 企画県民部知事室広報課 伝統を守る-手漉き和紙「杉原紙」2014年10月24日閲覧。
  3. ^ 全国手すき和紙連合会 正倉院の紙こそ和紙の原点2014年10月24日閲覧。
  4. ^ a b 兵庫県 産業労働部産業振興局工業振興課 杉原紙2014年10月24日閲覧。
  5. ^ a b 杉原紙研究所 杉原紙の歴史2014年10月24日閲覧。

外部リンク