対数螺旋

ピッチが10度の対数螺旋
対数螺旋を研究したヤコブ・ベルヌーイの墓石。下部に Eadem mutata resurgo の文句と共に、誤ってアルキメデスの螺旋が彫られている。
アイスランド南西沖の寒冷低気圧(2003年9月4日)。北半球南半球では巻きの向きが逆になる。
歴史上、初めて渦巻銀河と確認された銀河 M51

対数螺旋(たいすうらせん、logarithmic spiral)とは、自然界によく見られる螺旋の一種である。等角螺旋(とうかくらせん、equiangular spiral)、ベルヌーイの螺旋ともいい、「螺旋」の部分は螺線、渦巻線(うずまきせん)、匝線(そうせん)などとも書く。

17世紀スイスの数学者ヤコブ・ベルヌーイ(ジャック・ベルヌーイ)は、この曲線の「拡大しても変わらない」などの性質に魅了され、ラテン語Spira mirabilis (驚異の螺旋)と呼んだ。彼の望みは Eadem mutata resurgo (変化しても私は同じように生まれ変わる)の語句とともに、墓石にこの螺旋を彫ってもらうことであったが、誤ってアルキメデスの螺旋が彫られてしまっている。

定義

極座標表示 (r, θ) で

と表せる平面曲線を対数螺旋という。ここに、eネイピア数a, b は固定された実数である。r が原点からの距離を表すため、aでなければならないが、b は正、負のどちらでも構わない。正の場合は中心から離れる際に左曲がりである螺旋になり、負の場合は右曲がりの螺旋になる。裏返すことによって左曲がりを右曲がりにできるため、b > 0 に限った定義をすることもある。定義式において形式的に b = 0 とすると、半径 aとなる。

定義式は

とも書ける。b が正(負)の場合、r が 0 に近付くと θ はいくらでも小さく(大きく)なるので、中心近くでは無限回渦巻いている。

直交座標における媒介変数表示として、

も表せる。

後述する理由により、対数螺旋とは(ひとつの定数 B のみを用いて)

で定まる曲線である、と定義されることもある。ただし、B は 1 ではない正の数。

性質

本節では、対数螺旋の式は

で与えられているとする。

自己相似である。すなわち、任意の倍率で拡大または縮小したものは、適当な回転によって元の螺旋と一致する。例えば、eb 倍に拡大したものは、回転することなしに元の螺旋と一致する。

中心から伸ばした半直線と螺旋は無限回交わるが、隣り合う交点について、原点との距離の比は一定で eb である。対して、距離の差が一定であるような螺旋がアルキメデスの螺旋である。

中心から伸ばした半直線と対数螺旋が成す角は一定である。等角螺旋の名はこの性質に由来する[1]。実際、その角 α は

と計算される。b > 0 のとき、α は0度から90度の間の角であり、α の余角 90°− α を対数螺旋のピッチという。b < 0 のときは、α は90度から180度の間の角であり、α − 90° がピッチである。ピッチが大きいほど、螺旋に沿って中心から遠ざかる際に、中心からの直線距離がより速く大きくなる。すなわち、開いた形状になる。ピッチが0度に近付いた極限は円で、ピッチが90度に近付いた極限は中心から伸びた半直線と見ることもできる。

対数螺旋の形状は巻きの向きとピッチのみ、すなわち b のみによって決まるので、回転による違いを考慮しないならば、対数螺旋とは r = ebθ によって定まる曲線である、と定義してもよい。B = eb とおけば、さらに簡潔な式 r = Bθ で定義できる。

対数螺旋の伸開線および縮閉線は自分自身に一致する[2]。この性質を発見したヤコブ・ベルヌーイにちなみ、対数螺旋をベルヌーイの螺旋ともいう。

螺旋上の一点から螺旋に沿って中心に向かうと、前述のように無限回渦巻き、中心に辿り着くことはできないが、その道のりは有限である。実際、例えば b > 0 のとき、中心からの直線距離が r である点 (r cos θ, r sin θ) (ただし、r = aebθ)から中心までの道のりは

と計算される(結論は b < 0 のときも成り立つ)。

曲率関数

である。見た目からも明らかなように、中心に近付くほど限りなく大きくなり、中心から遠ざかるほど限りなく 0 に近付く。b が正である場合は曲率が単調減少であり、b が負である場合は単調増加である。この性質は進行方向に依らない。

指数関数は、複素数平面において、実軸にも虚軸にも平行でない直線を対数螺旋に写す。しかも、任意の対数螺旋はそのようにして得られる。実際、指数関数によって

と対応するから、直線 x = cy + d (c ≠ 0) 上の点 (x, y) は

に写る。

同じく複素数平面において、実部と虚部がともに 0 でない定数 k に対する関数 xk は、実軸を対数螺旋に写す。

自然界における対数螺旋

対数螺旋は、自然界のさまざまなところで観察される。例えば、が獲物に近付くとき、飛行の軌跡は対数螺旋であるとされる。その理由は、獲物を一定の角度で視認するためと考えられる[3]。同様に、が花に向かって飛ぶ軌跡も対数螺旋に近い[4]

相似な多角形を連ねていくと、対数螺旋に近い形を描く

軟体動物の殻、の角、の牙など、硬化する部位で、本体の成長に伴って次第に大きい部分を追加することで成長するような生物の器官において、対数螺旋が観察される。その理由は、図のように相似で少しずつ大きくなる多角形が次々に形成されていくと、螺旋に近い形が描かれるからであると説明される。成長が連続的となるように各断片を小さくしていくと、その極限図形の境界線はちょうど対数螺旋を描く。ピッチは生物によって異なり、サザエでは約10度、アワビでは約30度、ハマグリでは約50度である[5]。ピッチが小さい場合は自分自身を巻くことができるので巻貝に見られ、ピッチが大きいものは大きく口を開けた形の二枚貝アワビカサガイのようなものに見られる。

台風などの低気圧において、対数螺旋の模様が現れることがある。また、渦巻銀河の渦上腕は、ピッチがおよそ10度から40度の対数螺旋の形状に近い。太陽系を含む銀河である銀河系は、主要な渦状腕を4本持つとされ、そのピッチは比較的小さく、12度ほどと考えられている[6]

人工物における対数螺旋

紀元前5世紀に完成したイオニア式建築の神殿エレクテイオンの柱頭

アルキメデスの螺旋ほどではないが、デカルトやベルヌーイが数学的に解析するよりも前から、自然界に現れる対数螺旋は人々に認識されており、美術作品や建造物に用いられたといわれる。例えば、古代ギリシアの建築様式のひとつ、イオニア式の柱頭の特徴は、組になった渦巻の飾りであり、対数螺旋に近いものもある[7]

バチカン美術館の二重螺旋階段

また、レオナルド・ダ・ヴィンチの設計したバチカン美術館の二重螺旋階段は、真上から見ると対数螺旋である[8]

黄金螺旋

黄金四角形と黄金螺旋

黄金螺旋 (golden spiral)[9]とは、黄金比 φ に関連した対数螺旋の一種であり、

なる定数 b に対して r = ebθ で与えられるものである。さらに、B = eb とおいて、r = Bθ でも定義される。正の b に対しては

であり、負の b に対しては

である。黄金螺旋のピッチは約17.03239度である。

オウムガイの殻の模様は黄金螺旋を描いている、という説は有名である。しかし、その合理的な理由は知られておらず、実際にはオウムガイの殻のピッチは8度から10度であって17度とはかけ離れているなどの、黄金螺旋ではないとの指摘もある[10][11]

脚注

  1. ^ この性質を発見したのは、ベルヌーイよりも前のデカルトであり、彼自身はこの螺旋を等角螺旋と呼んだ。リヴィオ、p. 149
  2. ^ 岩波数学辞典第4版 100.G
  3. ^ リヴィオ、p. 149
  4. ^ 上村、p. 125
  5. ^ 上村、p. 115
  6. ^ Y. M. Georgelin and Y. P. Georgelin, The spiral structure of our Galaxy determined from H II regions, Astronomy and Astrophysics, vol. 49, no. 1, May 1976, p. 57-79. abstract
  7. ^ アータレイ、p. 83
  8. ^ アータレイ、p. 110
  9. ^ 「黄金螺旋」は仮訳。上村 (p. 129) は「黄金分割らせん」と呼んでいる。
  10. ^ 上村、p.129
  11. ^ Zell-Ravenheart, p. 274

参考文献

関連項目

外部リンク

  • Weisstein, Eric W. "Logarithmic Spiral". MathWorld(英語).
  • Weisstein, Eric W. "Golden Spiral". MathWorld(英語).
  • 上村文隆、はまぐりの数学
  • Spiral - 対数螺旋のピッチを調べることができるフリーウェア
  • NASA, Astronomy Picture of the Day - ハリケーン・イザベル子持ち銀河の写真
  • NASA, Astronomy Picture of the Day - 平成20年台風第2号回転花火銀河の写真
  • Jim Wilson, Spira Mirabilis, University of Georgia