オーステナイト系ステンレス鋼

オーステナイト系ステンレス鋼(AISI 304)製の椅子

オーステナイト系ステンレス鋼(オーステナイトけいステンレスこう)とは、常温でオーステナイトを主要な組織とするステンレス鋼である[1]。ステンレス鋼の耐食性を生み出す主元素のクロム、オーステナイトを安定させるニッケルを主成分として含み、クロム・ニッケル系ステンレス鋼に分類される[2]。クロムを 18 %(質量パーセント)、ニッケルを 8 % 含む18Cr-8Niステンレス鋼がオーステナイト系ステンレス鋼の代表的な鋼種である[3]日本工業規格で制定されているものとしては、SUS304が代表例である[1]

ステンレス鋼の金属組織別分類の一つで、他には「マルテンサイト系ステンレス鋼」「フェライト系ステンレス鋼」「オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼」「析出硬化系ステンレス鋼」がある[4][5]。これらステンレス鋼種の中でもオーステナイト系ステンレス鋼は最も一般的で、各種用途に幅広く使われている[5][6]

組成と組織

ステンレス鋼の基本となる鉄・クロム系の二元合金状態図。

オーステナイト系ステンレス鋼とは、常温での金属組織がオーステナイトとなるステンレス鋼である[1]。ステンレス鋼とはクロムを 10.5 %(質量パーセント濃度)含む合金鋼で、含有されるクロムによってステンレス鋼の耐食性が実現される[7]純鉄では、金属組織がオーステナイト(γ鉄)となるのは高温状態のみで、常温ではフェライト組織(α鉄)である[8]。純鉄にクロムを加えることにより、オーステナイトが安定的に存在する最低温度は約 830 ℃ まで広がる[9]。しかし、クロム含有量が約 7 % を超えると、オーステナイトが存在する温度領域は逆に小さくなり、クロム含有増加に伴って最終的にはオーステナイトの存在領域は消滅する[10]。一方、ニッケルを純鉄に加えると、オーステナイトが存在する温度領域は大きく広がり、オーステナイトが安定的に存在する最低温度はニッケル 30 % では約 500 ℃ まで広がる[11]。ニッケルのようなオーステナイトの存在範囲を広げる元素をオーステナイト生成元素と呼び、クロムのようなフェライトの存在領域を広げる元素をフェライト生成元素と呼ぶ[12]

オーステナイト系ステンレス鋼AISI304の金属組織顕微鏡写真。組織中の角ばった模様は双晶[13]

ステンレス鋼の組織は、フェライト生成元素とオーステナイト生成元素のバランスと、熱処理などによる熱履歴で決まる[14]。オーステナイト系はオーステナイト生成元素を含むため、オーステナイトが常温で存在できる[15]。オーステナイト系の標準鋼種として挙げられるのがクロム約 18 %、ニッケル約 8 % を含むものである[16]。これはJIS規定の鋼種では SUS304 や SUS302 に相当し、18Cr-8Niステンレス鋼18-8ステンレス鋼18Cr‐8Ni系としても知られる[16][17][18]。18Cr-8Niステンレス鋼の場合、厳密には高温状態でもオーステナイト単相ではない[19][20]シェフラーの組織図によれば、フェライトが約 5–10 % 存在するオーステナイトとフェライトの二相組織となっている[21]。しかし、炭素や窒素などのその他のオーステナイト生成元素の作用により、常温ではオーステナイト単相となる[20]。他のオーステナイト系鋼種も高温ではフェライトをいくらか含み、添加元素を増やした鋼種で高温でもオーステナイト単相となる[22]

オーステナイト系標準鋼の組成例
規格 材料記号 C Mn P S Si Cr Ni N
ISO X5CrNi18-10 0.07
以下
2.00
以下
0.045
以下
0.015
以下
1.00
以下
17.5–
19.5
8.00–
10.50
0.11
以下
EN 1.4301 0.07
以下
2.00
以下
0.045
以下
0.015
以下
1.00
以下
17.5–
19.5
8.00–
10.50
0.11
以下
AISI 304 0.07
以下
2.00
以下
0.045
以下
0.030
以下
0.75
以下
17.5–
19.5
8.00–
10.50
-
JIS SUS304 0.08
以下
2.00
以下
0.045
以下
0.030
以下
1.00
以下
18.00–
20.00
8.00–
10.50
-

オーステナイト安定度

添加される合金元素の量によってオーステナイトの安定度が異なる。オーステナイト安定度が低い場合は、塑性加工が施されたり、低温下に置かれたりすると、一部のオーステナイトがマルテンサイトに変態する。このようなオーステナイト系ステンレス鋼は、準安定オーステナイト系ステンレス鋼と呼ばれる[23]。このときに発生するマルテンサイトは加工誘起マルテンサイトと呼ばれる。オーステナイト安定度が高い場合は加工などを施してもオーステナイトが内定して残留し、安定オーステナイト系ステンレス鋼と呼ばれる[24]。安定度を予測する式として、30 % のひずみを与えたときに 50 % のマルテンサイトが発生する温度(Md30)を算出する次の実験式がある[25]

Md30 = 551 − 462(C + N) − 9.2Si − 8.1Mn − 13.7Cr − 29(Ni + Cu) − 18.5Mo − 68Nb − 1.42(ν − 8.0)

ここで、νASTM規格の結晶粒度番号を、各元素記号はその元素の質量パーセントを示す。Md30 が小さいほどオーステナイトは安定といえる[26]。18Cr-8Niステンレス鋼が準安定オーステナイト系ステンレス鋼、18Cr-12Niステンレス鋼が安定オーステナイト系ステンレス鋼の例に挙げられる[27]

特性

物理的性質

オーステナイト系ステンレス鋼は、一般的な普通鋼、フェライト系ステンレス鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼と異なり、面心立方格子構造を有するオーステナイト相で組織が構成される。このことによって、オーステナイト系の物理的特性の傾向は、同じステンレス鋼の仲間であるフェライト系やマルテンサイト系とは異なる部分が多い[28][29]

まず、一般的な鉄鋼材料と異なるのはオーステナイト系は非磁性(常磁性)材料であり、磁石に付かない[15]。これはオーステナイト系が面心立方格子構造であることに由来し、チタンなどの他の面心立方格子構造材料と同様である[30]。この非磁性という特徴が、電気電子部品での使用などオーステナイト系の使い道の選択肢を与えている[30][31]。SUS304 の場合で透磁率は約 1.3 × 10−6 H/m 程度である[32]。ただし、上記のとおりオーステナイト系であって冷間加工などによりマルテンサイトを有するようになるので、冷間加工したオーステナイト系では磁性を示すことがある[33]。合金元素量を増やした安定オーステナイト系では冷間加工しても非磁性が保たれる[33]電気抵抗は、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系の標準的鋼種[注 1]で比べるとオーステナイト系の電気抵抗がもっとも高い[34]。これは含有される合金元素の量が多いほど抵抗が増えることによる[34]。SUS304 の場合で、常温の比抵抗は 72 × 10−8 Ω·m 程度である[35]

ステンレス鋼の密度は鋼種間での差はあまりないが、炭素鋼、フェライト系、マルテンサイト系よりもオーステナイト系の密度はやや大きい[5][36]。SUS304 の場合で常温の密度は 7930 kg/m3 程度である[35]。これに対して、軟鋼の常温密度は 7860 kg/m3 程度となっている[37]。常温の縦弾性係数は SUS304 で 193 GPa 程度である[38]軟鋼の場合は 206 GPa 程度である[37]

熱伝導率も、電気抵抗と同様に合金元素の含有量に関係し、合金元素の含有量が多いほど熱伝導率が低くなる[39]。オーステナイト系の熱伝導率は軟鋼の1/5から1/6程度で、SUS304 で 16 W/(m·K) 程度である[40]熱膨張率は結晶構造に依存し、ステンレス鋼の中でオーステナイト系の熱膨張率が最も大きい[39]。SUS304 の 0–100 ℃ での線膨張係数が 17.3 × 10−6 K−1 程度である[35]。ステンレス鋼の比熱は鋼種間で大差はない[41]。オーステナイト系の比熱は、軟鋼のおおよそ1.1倍程度である[42]。SUS304 の場合で、0–100 ℃間の比熱が 0.50 J/(kg·K) 程度である[35]

耐食性

ステンレス鋼の組織別種類の中では、オーステナイト系は最も耐食性に優れている[3]。ただし、使用環境によってはステンレス鋼でも腐食は発生する[43]。特にオーステナイト系ステンレス鋼においては、湿食事故の原因として応力腐食割れの割合が高い[44]。オーステナイト系ステンレス鋼を使用した熱交換器などで、高温高圧の塩化物水溶液によって応力腐食割れが発生する事例がある[45]。オーステナイト系ステンレス鋼の熱伝導率が小さいことと線膨張係数が大きいことが起因となって、溶接時には残留応力が発生しやすい[46]。この溶接残留応力が原因となって、使用中に応力腐食割れを起こす事例もある[46]

機械的性質

オーステナイト系ステンレス鋼の機械的性質は、普通鋼フェライト系と比較すると、降伏点と比較して引張り強さが高く、延性に富むのが特徴である[47]。フェライト系とは異なり、応力-ひずみ曲線上で明確な降伏点は示さない[48]。固溶化・冷延薄板の SUS 304 の場合で、0.2%耐力が約 250 MPa に対して、引張り強さが約 630 MPa である[49]。また、延性の程度を示す伸びは約 60 % であり、硬さは約 160 HV となる[49]。オーステナイト系の強度を高めるには固溶硬化作用のある炭素窒素の添加が有効で、とくに窒素の添加がよく行われる[50]

前述のように、オーステナイト系に冷間圧延などの塑性加工を加えると加工誘起マルテンサイト変態が起き、加工硬化が発生する。この加工硬化によってオーステナイト系を高強度化できる[51]。加工硬化によってオーステナイト系を高強度化するには、準安定オーステナイト系が適している[52]。JISやAISIの301系は、加工硬化による高強度オーステナイト系の代表例である[27][53]。圧延率に比例して強度を上昇させることができ、最大で 1800 MPa 程度までの引張り強さが得られる[54]。一方で、圧延率に比例して伸びは落ちる。しかし、ある程度までの圧延率ならば十分な伸びを保ち、加工硬化後もそのまま成形して製品に使用できるのがオーステナイト系の優れた点でもある[55]。SUS301調質圧延1/2材の場合で、0.2%耐力が約 760 MPa、引張り強さが約 1030 MPa、伸びが約 24 %、硬さが約 320 HV である[56]

オーステナイト系は、高温および低温環境下でも機械的強度を使用可能な範囲で保つことができ、耐熱性・耐寒性に優れた合金でもある[57]。一般的な炭素鋼は高温になればなるほど強度が低下するが、ステンレス鋼は急激に強度が低下を開始する温度が高いという特徴を持つ[58]。特にオーステナイト系はステンレス鋼の中でも強度低下開始温度が高い[58]。オーステナイト系の急激な強度低下の開始温度はおおよそ 600 ℃ である[59]クリープ強度もオーステナイト系はフェライト系などと比較して高い[60]。オーステナイトは面心立方格子構造を取り、面心立方格子はフェライト系の体心立方格子よりも原子の拡散速度が遅い[61]。これによって、オーステナイト系の高温強度が高い[61]。この特徴により、耐酸化性の高さと合わせてオーステナイト系は耐熱材料としてもよく活用される[62]。さらにオーステナイト系の高温強度を高めるには、モリブデンニオブチタンの添加が有効である[62]

用途例

オーステナイト系ステンレス鋼は、ステンレス鋼の中でも最も広く使われている鋼種で、家庭用品、建築用、自動車部品、化学工業、食品工業、発電などで広く用いられてる[63]。年間生産量においても、ステンレス鋼中で最大の鋼種である[53]

18-8オーステナイト系ステンレス鋼のフォーク

身近なステンレス鋼製品としては食卓用のカトラリーが挙げられる[64]ナイフの刃は硬度が必要なためマルテンサイト系ステンレス鋼で造られることが多いが、一部の製品はオーステナイト系でも造られている[65][66]フォークスプーンは、マルテンサイト系もあるが、オーステナイト系の製品が一般的である[66][64]。これらのカトラリー製品には何の種類のステンレス鋼種が使われているか記されていることが一般的で、"18-8"あるいは"18/8"、"18-10"あるいは"18/10"といった記号がオーステナイト系製であることを示している[67][65]。家庭用・業務用ともに、厨房器具でもステンレス鋼が多用されている。流し台には防食のためにステンレス鋼使用が一般的で、廉価な製品にはフェライト系が使われることもあるが、オーステナイト系製も多い[68]IH用の調理器具にオーステナイト系を使用する場合は、IH用には磁性体材料が有利なため、普通鋼とオーステナイト系を接合させてクラッド鋼として使われる[69]

オーステナイト系ステンレス鋼 SUS301L を車体(構体)材料に使用した鉄道車両の例(JR東日本209系[70]

車体(構体)の主材料にステンレス鋼を使ったステンレス車両が、鉄道車両の現在の主流の一つである[71]。ステンレス車両は、普通鋼製の車両と比べると塗装を省略することができ、保守の手間が少ない[71]。さらに、塗装と腐食代が省略できるため軽量化が可能となっている[71]

鉄道車両の構体用ステンレス鋼種には、オーステナイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼が使われている[72]。オーステナイト系の場合は、加工硬化しやすく低炭素化で耐食性を高めた鋼種が主に使われている[73]。組み立て前に冷間加工で高強度化させて使用することで、構体を薄板化させて軽量化を行っている[72]。日本の鉄道車両では、準安定オーステナイト系ステンレス鋼の SUS301 に低炭素化と窒素添加などを行って特性を調整した SUS301L を主材料として使用している[74][75]。一方、高強度が要求されない内装用などではオーステナイト系標準鋼種の SUS304 が使われている[76]

歴史

発明

オーステナイト系ステンレス鋼の工業的な発明は、会社としてはドイツのクルップ社によって、個人としてはクルップ社の研究所に所属していたベンノ・シュトラウスドイツ語版エドゥアルト・マウラードイツ語版によって成された[77][78][79]。1900年から1910年にかけて、鉄・クロム・ニッケル系合金の耐食性について基礎学術レベルでは理解が深まりつつあった[80]。1906年にフランスのレオン・ギレフランス語版は、耐食性については言及しなかったものの、ステンレス鋼の3大グループである「フェライト系」「マルテンサイト系」「オーステナイト系」に属する組成を体系的に初めて研究した[81][82]。1909年には、ヴァルター・ギーセンによるクロム・ニッケル系のオーステナイト鋼の研究が続いた[80]。このように、ステンレス鋼の工業材料としての実用化の素地は当時整いつつあった[80]。その後、1912年にクルップ社が2つの耐食鋼に関する特許を出願した。一つは「V1M」と名付けられた鉄合金で、代表成分をクロム14%・ニッケル2%・炭素0.15%とするマルテンサイト系ステンレス鋼であった。もう一つは「V2A」と名付けられ、これがクロム20%・ニッケル7%・炭素0.25%のオーステナイト系ステンレス鋼であった[78]

エッセンにあるシュトラウスの銘板
フライベルクにあるマウラーの銘板

出願から遡る1909年頃から、クルップ社のベンノ・シュトラウスとマウラーによって鉄・クロム・ニッケル系合金の研究が進められていた[83]。シュトラウスは熱電対用の耐熱合金を研究しており、1910年に3種類の高クロム鋼、2種類の高クロム・ニッケル鋼を製作した[84]。これらの鋼は硬くて脆かったので、マウラーが適切な熱処理を研究した[85]。そうした研究中、それらの鋼種の一つの試験片が実験室の腐食雰囲気中で数か月放置されていたにも関わらず表面の光沢が失われていないことにマウラーが気づいた[86]。追試が行われ、オーステナイト組織を持つ高クロム・ニッケル鋼は硝酸溶液に対しても耐食性を持つことが確認された[87]。これらの研究成果をもとに、1912年にクルップ社は前述の2種の耐食鋼を特許出願した。

後の1920年代から30年代にかけて、誰がこれらの「錆びない鋼」の発明者と呼ぶにふさわしいについては、シュトラウスとマウラーの間で論戦が起こっている[88]。双方が自身が発明者にふさわしいと譲らず、学術誌・機関誌上で書簡による主張の応酬が続いた[88]。鈴木隆志は『ステンレス鋼発明史』にて、「ステンレス鋼はいずれにせよクルップ会社によって発明されたのは疑いないとして、個人よりも企業の功績に帰すべきである」という見解を紹介して、彼らの論戦についての説明を締め括っている[77]

普及と発展

クルップ社によって発明されたオーステナイト系ステンレス鋼V2Aは、当時フリッツ・ハーバーカール・ボッシュが開発したハーバー・ボッシュ法によるアンモニア製造に採用された[89]。V2Aがアンモニア合成のための硝酸タンクの材料に使われた[90]。ハーバーとボッシュの居たBASF社は1914年にクルップ社にV2Aを約20トン発注し、オーステナイト系ステンレス鋼の工業材料としての活用が始まった[91]

BASF社のV2A使用の中で腐食問題が起き、これを解決するためにV2Aの改良が行われた[92]。1922年から1930年にかけて、またはモリブデン添加による非酸化性酸への対策、含有炭素低減化による粒界腐食への対策などがクルップ社から特許が出された[92]。オーステナイト系ステンレス鋼は、その後、クルップ社以外の様々な研究者によっても改良が行われて様々な鋼種が生まれていった[93][92]。1923年頃には、イギリスのトーマス・ファース・アンド・サンズ社が組成の最適化を模索した結果、クロム18%・ニッケル8%・炭素0.2%未満の基本組成とした「Staybrite(ステイブライト)」という商品を開発した[92][93]。ステイブライトはICI社のアンモニア合成プラントで最初に採用された[92]。ステイブライト販売以降、オーステナイト系ステンレス鋼の基本組成としてクロム18%・ニッケル8%(18-8)が定着することとなった[86]

クライスラー・ビルディングの段型尖塔の外装には、大量のオーステナイト系ステンレス鋼板が使用された。

クルップ社も、1922年に自社のステンレス鋼を「NIROSTA(ニロスタ)」として商標登録した[94]。18-8のニロスタ鋼は海を渡り、アメリカ合衆国(米国)のクライスラー・ビルディング建設に使われる[95]。1924年、クルップ社のシュトラウスは米国材料試験協会のシンポジウムでクルップ社のオーステナイト系ステンレス鋼を紹介した[95]。建設主であったウォルター・クライスラーは、ビルの外観を金属で装飾することを望んでいた[96]。この目的に適うようなニロスタ鋼を含むいくつかの耐食性金属材料が検討された結果、比較的高価であったものの、錆びづらく、汚れづらく、研磨による艶出ししやすいニロスタ鋼が採用されることとなった[95]

米国では、ニロスタ鋼に相当するステンレス鋼の生産実績は1927年までなかった[95]。結局、クルップ社からライセンスを受けた3社が、ニロスタ鋼の板材・棒材を提供することとなった[97]。1930年、クライスラー・ビルディングは完成する[98]。4500枚のニロスタ鋼の薄板材がビル最頂部の段型尖塔の外装に使われた[99]。クライスラー・ビルディングは、大量の18-8オーステナイト系ステンレス鋼が外装に初めて使われた世界初の建築物となった[100]。1995年にクライスラー・ビルディングの検査が行われ、外装の状態も確認された[101]。検査報告書では、風雨による洗浄も手伝い、沿海地域に建てられたにも関わらず、ニロスタ鋼は期待通りの性能を発揮し、良好な状態が保たれていたと報告された[102]

脚注

注釈

  1. ^ SUS410とSUS430とSUS304

出典

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  80. ^ a b c 大山・森田・吉武 1990, p. 8.
  81. ^ 鈴木 2000, pp. 41–42.
  82. ^ 大山・森田・吉武 1990, pp. 6–7.
  83. ^ 大山・森田・吉武 1990, p. 9.
  84. ^ 鈴木 2000, p. 59.
  85. ^ 鈴木 2000, pp. 59–60.
  86. ^ a b 田中(編) 2010, p. 17.
  87. ^ 鈴木 2000, p. 61.
  88. ^ a b 鈴木 2000, pp. 69–72.
  89. ^ 鈴木 2000, pp. 66–67.
  90. ^ 鈴木 2000, p. 67.
  91. ^ 大山・森田・吉武 1990, p. 10.
  92. ^ a b c d e 遅沢 2011, p. 682.
  93. ^ a b 大山・森田・吉武 1990, p. 12.
  94. ^ 鈴木 2000, p. 66.
  95. ^ a b c d Cobb 2010, p. 105.
  96. ^ Cobb 2010, p. 104.
  97. ^ Cobb 2010, pp. 106, 119.
  98. ^ ステンレス協会(編) 1995, p. 9.
  99. ^ Cobb 2010, p. 111.
  100. ^ 鈴木 2000, pp. 116–117.
  101. ^ Cobb 2010, pp. 119, 121.
  102. ^ Cobb 2010, p. 121.

参照文献

※文献内の複数個所に亘って参照したものを特に示す。

  • ステンレス協会(編)、1995、『ステンレス鋼便覧』第3版、 日刊工業新聞社 ISBN 4-526-03618-8
  • 野原 清彦、2016、『ステンレス鋼大全』初版、 日刊工業新聞社〈技術大全シリーズ〉 ISBN 978-4-526-07541-4
  • 橋本 政哲、2007、『ステンレス』初版、 工業調査会〈現場で生かす金属材料シリーズ〉 ISBN 978-4-7693-2193-4
  • 田中 良平(編)、2010、『ステンレス鋼の選び方・使い方』改訂版、 日本規格協会〈JIS使い方シリーズ〉 ISBN 978-4-542-30422-2
  • 大山 正・森田 茂・吉武 進也、1990、『ステンレスのおはなし』第1版、 日本規格協会〈おはなし科学技術シリーズ〉 ISBN 4-542-90150-5
  • 向井 善彦、1999、『ステンレス鋼の溶接』第2版、 日刊工業新聞社 ISBN 4-526-04433-4
  • 鈴木 隆志、2000、『ステンレス鋼発明史』初版、 アグネ技術センター ISBN 4-900041-80-7
  • 谷野 満・鈴木 茂、2013、『鉄鋼材料の科学 : 鉄に凝縮されたテクノロジー』第3版、 内田老鶴圃〈材料学シリーズ〉 ISBN 978-4-7536-5615-8
  • 徳田 昌則・山田 勝利・片桐 望、2005、『金属の科学』初版、 ナツメ社〈図解雑学シリーズ〉 ISBN 4-8163-4040-8
  • 金属用語辞典編集委員会、2004、『金属用語辞典』初版、 アグネ技術センター ISBN 4-901496-14-X
  • Joseph Ki Leuk Lai, Kin Ho Lo, Chan Hung Shek, ed (2012). Stainless Steels: An Introduction and Their Recent Developments. Bentham Science Publishers. doi:10.2174/97816080530561120101. ISBN 978-1-60805-305-6. 
  • Harold M. Cobb, ed (2010). The History of Stainless Steel. ASM International. ISBN 978-1-61503-010-1. 
  • 遅沢 浩一郎、2011、「講座:ステンレス鋼活用の基礎知識 ―歴史、特性、耐食性― 1.ステンレス鋼の歴史と製造」、『材料』60巻7号、日本材料学会、doi:10.2472/jsms.60.680 pp. 680–686
  • 遅沢 浩一郎 (2009年1月). “腐食センターニュース No. 048 ステンレス鋼の特性と使用上の要点 (pdf)”. 腐食センター. 2019年3月30日閲覧。
  • Basic facts about stainless steel (pdf)”. www.worldstainless.org. International Stainless Steel Forum. pp. 1–6 (2012年). 2018年3月3日閲覧。